江戸東京博物館

両国の駅からの視線を十分に意識したであろうその形態はわかりやすさと複雑さを同時に表現しているようにも見える。 レム・コールハースの「ビッグネス」を建築家によって具現化したような佇まいは、異様なものだがここまで堂々とされると、やはり説得力を帯びてくる。 強いものが勝者であるのではなく、勝ったものが強いということか。 「バカの壁」を何気なく開く。 それは、15年ほど前の養老孟司著の対談をまとめた本で、とても読みやすいもの。 そこで語られる論旨は、現代人がいかに偏った思考方法かということが書いてある。 話せばわかるというのは大嘘で、話してもわからないことはこの世に無数に存在する。 説明してわかることは、ほんの少ししかない。 それがバカの壁であり、その壁に隔たれたもの同士がいくら会話を試みても、互いを理解することができない。 物を知るということは、このビッグネスな建築を前にした感情が、もっと近くに寄ってみたら、どうなのだろう 反対側から見たらどうなってる?あのピロティでコーヒー飲んだらどんな気分・・・。 というように無数の情報がそこに転がっている状態を、一つ一つ観察し体感して 再び同じ建築を見たときに、ガラッと見え方や感じ方が変わること。 それが、知るということ。 僕はこのショットをスマホに…

すみだ北斎美術館

総武線に乗っている時に、もう既に日も暮れて真っ暗なはずなのに異様なオーラを放つ建築物があった。 わずかに照明の光が漏れていて、独特の形態を映し出す。 そのうちに電車が動き出し、すぐに頭の建築インデックスが作動するのに気がつく。 『すみだ』ってこんな所にあるのか・・・・。 自分の建築センサーもなかなかやるなと自画自賛して、読みかけの「首折り男のための協奏曲」を再び読み始めた。 こんなに近くなら、すぐに行けると思い直して、明日の予定に無理やり組み込む。 次の日の天気は、予想以上に晴れていた。 建築を見る上で天気の影響は多大だ。良くも悪くも印象が変わってしまう。 でも『すみだ』はきっと雨だとしてもその佇まいは美しいものになることは容易に想像できる。 妹島事務所や西沢事務所は膨大なスタディを重ねることは建築界では有名な話だが、どんなにスタディを重ねていても、そこから選び出される案はたった一つで、それが妹島作品であり西沢作品になる。 西沢さんはもう10年以上自分で案を出さないらしい。 それが何を意味するかは、ここでは書かないが、妹島さんはもっと前からそうだろう。 ちなみにジャン・ヌーヴェルはスケッチすら書かないらしい。 スタッフへの指示は全て言葉でするそうだ。 建築家の仕事とはそういうものだ。…

鉄骨検査

T-houseの鉄骨検査に安曇野へ。 もう何度も鉄骨検査をしているけれど、未だに建築パーツを事前に確認するワクワク感は変わらない。 もちろん、事前に製作図を確認して、その通りの実物が目の前にあるだけの話なのですが。 でも、これが自分のイメージする空間を支える構造体なのだと考えると、楽しくなるのです。 鉄骨部材は規格品であり、ある程度決まった形です。 それを、適材適所で設計をして部材を使い分け、時にはカットして形を変えて骨組みを作る。 部材同士は溶接で接合されているので、それが規定の強度を持っているか、変形はないか パーツとしての形状がきちんとできているか、など様々な項目をチェックします。 それでも、建築現場に完璧はありません。 致命的なトラブルが発生する可能性はゼロではありません。 構造躯体の強度が低下するようなミスは、あまり起こりませんが意匠上のトラブルはよく起こります。 それは、デザインの意図というのを施工者(特に職人レベル)で理解することは非常に難しいということです。 だからこそ、建築家は現場を見て、細かい指示をしながらそれを作品として昇華させるべく腐心するのです。 現場監督はスムーズに進めるために、現場を管理し、我々もそれに協力をします。 ただ、僕が現場を見て考えているのは、…

飯山市文化交流館なちゅら

近場なので、行ってきました「なちゅら」。 設計は隈研吾さんです。 建築を評価するときに、ビルディングタイプの違いとか、予算の違いを理由にする人がいます。 例えば、お金があるからこんなことができるんだとか・・・。 本来そんなものは関係なくて、限られた予算の中でどんな解答がベストなのか、どうマネジメントされているのかを考えるべきです。 そして、この建築はここで何を作るべきか、周囲の環境をどう解釈するのか、どこにお金をかけるべきなのか 様々な要件に対する建築家の解答の一つ一つが、「そうだよね」と納得できるものでした。 施工費は約30億。 ホールを持つ文化施設として、余裕のある予算ではないと思うけれど、飯山市の財政を考えれば立派だと思います。 それに対して、きちんと建築家の『思い』が伝わる建築だと感じます。 長野市の市庁舎・市芸術館の施工費は約160億。 市庁舎の費用があるので、一概に比較はできませんが明らかに異なるデザイン密度。 大御所が設計したとしても「思い」がなければそれは建築ではなく建設に堕落する。 長野市民は見ておいた方がいいと思います。 ただ隈さんのポリゴン系の建築は、実は私は嫌いです。 ここでの、デザインテーマが何なのかは理解できますが。 結論としては、いい建築なんですけど・・…

世界遺産

久々のブログ更新。 Facebookで近況報告をするようになってから、ブログを書く機会が減ってしまいましたが、これはきちんと記録したいと思いました。 まず、日本で唯一のコルビュジェ作品である上野の『西洋美術館』が世界遺産になりました! このニュースは本当に嬉しいことです。 コルビュジェ財団が世界的に作品全てを世界遺産に認定しようという動きをしているようで、日本でも数年前から検討されていたようです。 関係各所の皆様にとっても、僕のような建築に関わる全ての人にとって、歴史が動いた記念すべき瞬間であると感じます。 ル・コルビュジェという建築家については、様々な研究がなされているのでそちらに論を譲るとして、作品についての解釈について僕の思うところを・・・。 SNSでもいろいろな意見がありますが、「西洋美術館」についての僕の評価は、実はあまり高くありません。 そう思う理由の一つに、コルビュジェの作品はどれも世界遺産として残すべきものですが、唯一日本の「西洋美術館」はそもそもコルビュジェ作品と言えるのか怪しいというものです。 これは主には磯崎さんが語っている説の受け売りなので、詳しくはそちらを見ていただきたいのですが、概略はコルビュジェの基本設計図には寸法が書かれていないこと。 実施設計を日本の…

日本建築思想史

久々に本が読みたくなって手にしたのが「日本建築思想史」磯崎新著。 磯崎さんの文章は難解ですが何故か読みたくなります。 そこに山があるから登るのが登山家であるなら、建築家として磯崎新の言説はエベレスト級の山に見えますが、どうしようもなく惹かれます。 本書は、難解なのは序章までで、あとは対談形式なのでとても楽に読めました。 内藤廣曰く「建築家の言説が難解なのは、出来なかったことを説明しようとしているから」と言っておりますが 磯崎さんに限っては、明らかに意図的に難解にしている。 分かるもんなら分かってみやがれ的な・・・。 現代において「わかりやすさ」は正義でもあり、なんでも簡略化や省略をして「わかりやすく」することで消費されます。 消費されないモノを構築するには、やはり消費されない思考ももちろんだが、社会背景も重要。 そういう意味では時代を読み解き、そこでどう振る舞うかにかかっている。 それは私のような末端の建築家であっても、同じだと思う。 磯崎新はこう読んでこう振る舞った。 僕はどう読み、どう振る舞う?…

itsukushima

[:ja] Trips 5日目、最終日です。 尾道の山側に登りたかったんですが、またの機会に・・・。 そのまま広島へ。 広島は2度目ですが、前回は世界遺産でもある宮島の厳島神社を見ていないので、それが最終目的。 途中に窪田勝文さんの住宅と谷尻誠さんの住宅、吉村 靖孝さんの作品にそっくりな建築がありました。 ざっくりとした情報しかなかったので、車窓をキョロキョロしていましたが、見つけられると結構嬉しいものです。 かなり偶然なことがほとんどですが。 さて、フェリーでいざ宮島へ。 夜と昼とで、2度訪れましたが満潮時に時間を合わせることができずに、水に浮かぶ状態を見ることはできませんでした。 でも、その歴史と壮大な構想を感じることはできました。 建築においての新しさってなんだろうと常々思いますが、構法や素材が変わっても その意志というか理念というか、そういうものは突き抜けると時代を超えて訴えていける。 伊勢神宮の式年遷宮も物理的な状態から抜け出すために、行っているようなものではないか。 だから、その根本である理念がなければどんな建築も抜け殻で、意味のないものだ。 20世紀は機能という理念に支配されていたかもしれないが、もっと違う理念や意志が必要だと思う。 帰りのフェリーのデッキから、神社が完…

ribbon-chapel

[:ja]Trips 4日目。 岡山を出てから、約1時間ほどで尾道へ。 今回のメインの第二弾、リボンチャペル 設計は中村拓志。 昨年のリーフ賞 最優秀を受賞したそうです。 「Bella Vista」というリゾートホテルに付随する結婚式用の教会建築。 滅多にないハイクラスのホテルに泊まって、のんびりしながらの建築行脚。 部屋では、地元産のデニムで作られたテディベアがお出迎え〜。 今はオフシーズンなので、結婚式の下見がてらに宿泊する方も多いそうです。 結婚式をあげる予定はないですが、チャペルに案内していただきました。 純粋に建築のみを見に来る人は、流石に稀なようで、少々驚かれましたが。 でも、担当の方のいろいろな裏話を聞けるのも、楽しみの一つで今回もいい話が聞けました。 コンセプトとしては、二重螺旋が二人の人生を表していて、それが頂部で交わり結婚に至る・・・。 というストーリーでこの結婚を祝福しますという建築らしいです。 結婚式用として、とても秀逸なロジックだと思いました。 そしてこの外観・・・。インパクトは十分ですね。 ホテル側は、もう少し大きい会場が欲しかったそうです。実際内部は意外にコンパクトであまり余裕がありません。 しかし、このスケール、プロポーションがとてもいいと思いました。…

岡山大学

[:ja]Trips 2日目の続き。 夕方に岡山到着。名古屋では雪が舞っていました。 ホテルチェックインして辺りは暗くなっていたが、早速周辺散策。 近くに安藤さんの「朝日新聞社」を発見。 ほとんど外観のみしか見ることができないが、やっぱりモノとしての完成度が抜群です。 安藤さんを批判する人は多いけど、批判するなら同じことをやってみろと言いたい。 そして、同じことをやり続ける根性があるのかと問い詰めたい。 コンクリート打ち放しという武器で、今も世界中に作り続けるということは並大抵ではない。 建築の設計したことある人ならわかるよね。たとえ学生でも。 さて、3日目も朝から張り切って歩きます! まずは岡山に来たのは、SANAAを見る為です。 福武純子さんの寄贈による建築です。 純子さんはあの福武さんの妹さんなんですね、初めて知りました。建築寄贈ってスケールがでかいですな。 羨ましいぞ岡山大学!! 張り切りすぎて時間早くについてしまい、まだ掃除中でしたが、覗いていたら館内の女性が案内してくれました。 カーテンまで閉めて頂いたり、とても丁寧な対応に感激です。 いろいろ建築を見てきましたが、公共建築であっても訪れることに嫌悪感を抱かれることもあり 非難されることもありますが、たまにこういう優しさに…

カマキン

Trips 2日目です。 朝から天気も良く、建築を見るには最高のコンディション。 鶴岡八幡宮は2度目なのですが、すぐ隣にある神奈川県立近代美術館 通称「カマキン」には初めてです。 カマキンは今月を最後に閉館し、建築は保存されるようですが、美術館として最後の展覧会です。 設計は坂倉準三。竣工は1951年11月。築65年で僕のカルマンより古いですね。 坂倉さんはコルビュジェの弟子としても有名ですので、プランや外観はその影響が見ることができますが、鉄骨造のこの建築は後のライトストラクチャーに通ずる軽さを持っています。 坂倉さん自身はこの後どんどんブルータルな建築に傾倒していきますが、パリ万博から続く鉄骨の美しさを追求している時代が、僕はとても共感します。 多分、当時の日本にはこの美しさを追求できる技術と資材がなかったのでしょうが、世界でもその方向性をいち早く見出した坂倉さんの先見性は素晴らしいと思います。 そして、この案をコンペで見出し実現させた先人達の英断は世界に誇るべき事実です。 自然光による展示室の屋根形状も、すぐに改修されてしまったところを見ても設計に技術が追いついていない為だと思われます。せっかくの薄い屋根が厚ぼったくなってしまったのも残念。 もっと残念なのは、同じ設計者による増…

美大図書館

[:ja]ちょっと時間が空いたので、Short trip。 もともとは「カマキン」が最後の展覧会をしているので、それが目的だったのだが どうせ行くなら、そのまま西へ。ということでまずは東京周辺。 私の姪が武蔵美出身なのですが、在学中は一度も来ることができず・・・やっと訪れることができましたムサビ。 流石の美大はキャンパスが楽しげで、とてもイイ。もっと早くに来れば良かったと後悔するほど。 目的は、やっぱりフジモトさんの図書館です。 たどり着くまで気がつきませんでしたが、只今絶賛試験中なんです。 おかげで、図書館閉まってました・・・。 しかし、中に入れなくとも見るべきところは沢山あるから、と思い直してぐるっと一周。 周囲では何やら学生たちが、制作活動をいたるところでしていました。 なんか、そういう雰囲気もイイと思える要素ですね。 フジモトさんにとって初めての公共的な仕事だと思いますが、そういうフレッシュなエネルギーをとても感じました。 使い勝手としては、色々言い分はあるのでしょうが。 そして、天気が良かったのでそのまま八王子へ直行。 目指すは、多摩美図書館 by 伊東豊雄。 久しぶりの建築行脚で侮ってましたが、最近無茶な見学をする輩も多いらしく、学校側も敏感になっているみたい。 見学は試…